
観光庁では、DX推進による旅行者の利便性や観光産業の生産性向上を目的に、生成AIの活用を進めています。生成AIは多言語対応や問い合わせ対応、文章作成などを自動化できるため、これまで人が担っていた業務を効率化できる点が注目されています。特に、増加する外国人旅行者への多言語対応機能には大きな期待が寄せられています。
ただし、生成AIがすべてを代替できるわけではなく、人による確認や適切な運用設計は欠かせません。本記事では、観光業における生成AIのメリットと活用例、導入時のリスクや注意点について解説します。
※■POINT※
・観光業で生成AIの需要および活用が増加している
・生成AIを観光業で活用することで、現場の課題解決や顧客満足度の向上など多くのメリットにつながる

日本を訪れる外国人旅行者は、コロナ禍以降、大幅な増加傾向にあります。政府が掲げる「観光ビジョン構想」では、2030年に訪日客6,000万人、消費額15兆円を目標としています。
一方で、観光業界では人手不足が慢性化しており、現場の業務負担は依然として重いままです。このギャップを解消する手段として、問い合わせ対応や多言語対応を自動化できる生成AIの活用が注目されています。
インバウンド需要は国内経済に大きく貢献しており、政府もさらなる拡大を進めています。しかし、人気観光地では観光客が集中し、いわゆる「オーバーツーリズム」が課題になっています。
オーバーツーリズムとは、観光地の受け入れ能力を超えたことで、飲食店や宿泊施設が多言語対応や予約管理に追いつけなくなる状態を指します。サービス品質の低下だけでなく、自然環境や地域住民の生活にも悪影響を及ぼします。
この状況を背景に、問い合わせ対応の自動化や混雑状況の案内など、生成AIを活用した多言語対応システムへの需要が高まっています。
インバウンド需要の増加に対して、観光業界は慢性的に人手不足です。その背景には次の要因があります。
長時間労働:繁忙期は変形労働時間制により働く時間が伸びる
給与額が低い:他業種と比較して給与の平均額が低い傾向にある
休みを取りにくい:宿泊業は365日営業が多く、有給休暇も平均6.7日と少ない
高い離職率:人が定着しにくく離職率が26.8%と高い
さらに、観光需要の拡大に伴い事業者が増えたことで、人材の奪い合いも発生しています。
人手不足は、受け入れ体制の限界を招き、結果としてオーバーツーリズムを加速させます。対応品質が低下すれば満足度が下がり、消費額の伸び悩みや再訪率の低下につながります。また、悪い体験が口コミで拡散すれば、新たな来訪者を失うリスクもあります。
持続可能な観光とは、UNWTO(国連世界観光機関)により以下の定義があります。
訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光
引用:持続可能な観光の定義 | 世界観光機関アジア太平洋地域事務所
オーバーツーリズムの増加から、人気観光地においては交通機関の混雑や景観の悪化、マナー違反による問題などに関心が高まってきました。これらの問題は、人材が不足している現状では解決が難しい場合でも、生成AIを活用した高度な業務効率化で改善が期待できます。
国や自治体でも、観光分野を含むDX推進において生成AIの活用を検証する動きが広がっています。主な取り組みは次のとおりです。
観光庁:「観光DXにおける生成AIの適切かつ効果的な活用に関する調査事業」での検証と効果を評価
JTB:「生成AIの利用と旅行についての調査」実施
自治体:総務省が「自治体における生成AI導入状況」を発表している
これらの取り組みを通じて、生成AIの導入効果を検証し、今後の実装支援や制度整備が進められています。

生成AIの導入は、以下のような3つのメリットを観光業にもたらすと考えられています。
顧客体験の向上:来訪する外国人旅行者へより快適な観光体験を提供する。
業務効率化:観光業で働くスタッフの業務負担を軽減し作業効率や精度を向上させる。
新しい観光体験の創出:生成AIにより顧客とスタッフの両方にメリットがある観光プランを提案する。
生成AIを活用することで、旅行者への対応品質を高めることができます。主なメリットは次の通りです。
多言語対応
・外国人旅行者の母国語で観光地の情報をリアルタイムで発信できる。
・予約や問い合わせを複数言語で直接やり取りでき、来訪前の不安を軽減できる
・文化的背景を考慮した応答が可能になり、機械翻訳より自然な案内ができる
問い合わせ
・24時間365日体制でAIチャットボットを導入し、深夜帯や休日の問い合わせにも即時回答できる
・よくある質問は自動対応し、混雑時の待ち時間を最小化できる
レコメンド
・過去の閲覧履歴や行動データをもとに、個別最適化された観光プランや商品を提案できる
観光業の業務で生成AIを導入すれば、スタッフの業務負担を軽減し勤務状態の改善が可能です。
資料作成
・過去の問い合わせデータをもとに、マニュアルや案内文を自動作成できる
・ベテランと新人の対応品質を均一化できる
・オペレーター対応中に必要情報を自動表示し、複雑な問い合わせには複数の回答案を提示できる
FAQ自動化
・過去の問い合わせログを学習し、FAQを自動作成・更新できる
・マニュアルやシステム情報と連動できるため、最新情報への差し替えも自動化できる
シフト調整
・繁忙期・閑散期の来客数を予測し、人員配置を自動調整できる
・スタッフの希望シフトを反映しつつ、急な変更にも対応可能
・労働基準法や社内ルールを条件として設定すれば、法令違反のないシフトを自動生成できる
生成AIは旅行者の興味・行動履歴・予算などのデータを基に、個別最適化された観光体験を提案できます。
AIガイド
・希望条件を入力するだけで、最適な観光ルートやモデルコースを自動提案できる
・宿泊・移動手段の案内や、予定変更時の再スケジュールにも対応できる
・現地滞在中もリアルタイムで情報取得ができるため、計画と行動のギャップを減らせる
ストーリーテリング
・歴史や文化背景、地域のストーリーを組み込んだ「物語性のある旅行プラン」を自動生成できる
・膨大なデータから興味関心に合う視点を抽出し、従来のモデルコースとは異なる“体験価値”を提案できる
※ストーリーテリングとは単なる情報羅列ではなく、体験を物語として伝える手法のことです。
は令和6年度に「観光DXにおける生成AI活用に関する調査事業」を実施し、令和7年3月に実証結果を公表しました。各地で生成AIを活用した取り組みが進んでおり、多言語対応の強化や混雑対策、情報発信の最適化など、用途は多岐にわたります。
ここでは、実際に生成AIを観光現場で活用している事例を5つ紹介します。
北海道の「お宿 欣喜湯」と「ひがし北海道自然美への道DMO」では、フロント業務における多言語対応の効率化を目的に生成AIを導入し、実証結果が報告されています。
■導入前の課題
従業員によって多言語対応の品質に差がある
翻訳機の直訳では不自然で、伝わりにくい表現になることがあった
生成AIによる対応内容
夕食時間の確認や連泊時の清掃確認など、定型業務をAIが多言語で案内
事前に翻訳済みの文章を表示し、誰が対応しても同じ品質を担保
■導入効果
多言語対応できるスタッフが不在でも案内が可能に
英語圏以外の旅行者にも対応できるようになり、受け入れ幅が拡大
案内文を統一できたことで、スタッフ間の対応品質を平準化
北九州の人気観光地・門司港では、インフォメーションセンターに寄せられる多様な問い合わせへの対応に時間がかかることが課題となっていました。
■導入内容
生成AIを活用し、観光・交通データを参照できる検索ツールを構築
問い合わせ内容に応じて、自動で回答文案を生成する仕組みを導入
一次回答の自動化により、スタッフが対応する前の負担を軽減
■導入効果
問い合わせの約69%をAIが回答可能に
スタッフの対応時間を約52%削減
多様な質問に迅速かつ一定品質で返答できる体制を構築
LINEヤフー株式会社の調査*によると、旅行前の検索行動では「地域紹介」や「モデルコース」へのニーズが高いことが分かっています。これを踏まえ、同社はスマートフォン向けに「観光AIモデルコース」機能を提供しています。
* LINEヤフー社調べ「ガイドブックやモデルコースへのニーズ調査」、「Yahoo!クラウドソーシング」利用の調査、2023年8月実施、調査回収数:4,000人
■機能の概要
「地名+観光」と検索すると、観光情報とAI生成のモデルコースが自動表示される
コースは「王道」「ファミリー」「女子旅」「友達」「デート」など5種類のテーマから選べる
各スポット間の移動手段や所要時間も確認でき、実際の行動計画に活用可能
■特徴
スポット情報やイベント情報をAIが分析し、利用者の嗜好に合わせて最適なコースを提案
旅行者が自分で組み立てる手間を減らし、検索体験と旅行計画の両方を効率化
古くからの歴史的遺産を数多く残している京都では、京都市観光協会がオフィシャルサイト「京都観光Navi」を運営し、さまざまな情報を発信しています。
■主な機能
「京都観光快適度マップ」で、人気観光地周辺の混雑状況を5段階アイコンで表示
混雑予測は生成AIが人流データをもとに算出
天気情報と組み合わせて、訪問タイミングを判断できる仕組みを提供
■特徴
現地に設置されたカメラ映像をSNSでリアルタイム配信し、実際の混雑状況も確認可能
旅行者が混雑を避けた行動を取りやすくなり、オーバーツーリズム対策にも寄与
宿泊業における収益最大化には、需要予測をもとに客室価格や販売状況を最適化する「レベニューマネジメント」が欠かせません。生成AIを活用することで、このプロセスを自動化し、業務効率を高めることができます。
■活用ポイント
過去データや需要予測をAIが分析し、最適な価格設定を自動提案
予約管理システムと連携し、空室状況をリアルタイムで更新
顧客への案内精度が向上し、ダブルブッキングなどのトラブルを防止
■期待される効果
適正在庫・適正価格の維持により収益最大化を支援
予約管理業務の自動化により、人手不足の解消にも寄与
スタッフが接客や企画など付加価値業務に時間を割けるようになる
生成AIは蓄積されたデータをもとにパターンを推測して文章や画像を生成します。しかし内容の正確性を自ら判断できるわけではなく、誤情報や不適切な表現が含まれる可能性があります。そのため、最終的なチェックや運用ルールの設計は人間が担う必要があります。
生成AIを業務に活用する際は、顧客情報や業務データを扱う場面が多く、情報管理には細心の注意が必要です。AIが生成した文章や画像に、個人情報や企業内部情報が含まれる可能性もあります。また、学習データに著作権素材が含まれていた場合、第三者の権利を侵害するリスクも発生します。
そのため、
入力データ・学習データの管理
生成物の権利・内容チェック
プライバシー保護と著作権確認
といった対策を徹底する必要があります。これらを怠ると、情報漏えいや損害賠償、差止請求といった法的リスクを負う可能性があります。
生成AIは大量のデータを学習して文章を生成しますが、その中には誤情報や不適切な表現を含む場合があります。また、生成過程にはランダム性があるため、同じ質問でも回答がぶれる、一貫性がないといった問題も起こり得ます。
特に注意すべきなのが「ハルシネーション(AIの虚偽生成)」です。実在しない情報を事実のように出力したり、意図と異なる内容を回答したりするケースが発生します。
そのため、生成AIの出力内容は 事実確認・表現確認・倫理チェック を必ず人が行うことが必要です。AIに任せきりにしない運用体制が不可欠です。
生成AIは出力内容の正確性やデータの偏りを自ら判断できません。そのため、利用する側のスタッフがAIの特性を理解し、適切に扱える体制づくりが重要です。
特に必要なのは次の2点です。
AI運用ルールとセキュリティ教育の徹底
生成AIに入力してはいけない情報のルール化
出力結果の確認・承認フローの整備
セキュリティ/著作権リスクに関する基礎教育
サイバー攻撃への備え
悪意ある入力で誤作動を誘発する「プロンプトインジェクション」への対策
アクセス権限の管理、監視システムの導入など、技術×運用の両面でリスクを抑制
>>【飲食店オーナー向け】生成AIを使ってカンタンに外国語のメニューを作る方法
>>生成AIで変わる接客業務 店舗が得られる効果と導入成功のチェックポイント
インバウンド需要の伸びにより、生成AIを観光に活用する場面は今後もさらに増えていくと考えられます。
店舗情報発信と分析のプラットフォーム「STOREPAD」は、飲食店やホテル、旅館の業務に特化した機能が充実しています。Googleビジネスプロフィールと各種SNSプラットフォームに加え、主要な宿泊予約サイトとも連携し、一つの管理画面から発信情報を一括で更新が可能です。
口コミへの返信は双方向の自動翻訳により多言語に対応しているため、外国人旅行者とのコミュニケーションが容易に行えます。同時に口コミ内容をAIが診断・分析をするため、外国からの口コミによるフィードバックを得ることにも適しています。
生成AIを活用した観光情報発信は、ぜひSTOREPADにお任せください。
店舗ビジネスの成功を左右するのは「集客」と「顧客満足度」です。店舗事業者が押さえるべき基本的な集客手法から、ポータルサイトやホームページの活用法、Googleビジネスプロフィールの攻略ポイント、SNSマーケティングの基礎知識、さらにはUGC(ユーザー生成コンテンツ)や口コミの活用まで、実践的なノウハウをぎゅっと詰め込みました。 無料でダウンロードできますので、ぜひお店の集客やマーケティングに役立ててください。

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監修者プロフィール
折川 穣(Jo Orikawa)
IXYASのCMO。ex-Google。複数のスタートアップにて営業・マーケ・CS組織を立ち上げ、SaaSのAPI連携や販売代理モデルを構築。Microsoftではパートナーと連携し、AI市場の拡大戦略を推進。MAIAの取締役COOを兼務。https://www.linkedin.com/in/jorikawa/
